音ゲーの個人製作譜面の著作権はなぜ問題にならないのか

こんばんは。

この記事は文字数が多く、図や画像が少なく読みにくいと思われます。目次がありますのでそちらも使用してください。

はじめに

音ゲーには公式が譜面を提供しているものと、個人が譜面を自由に作り提供する物の2種類があります。

例えば、「太鼓の達人」と呼ばれるアーケードゲームや「Muse Dash」と呼ばれるPC/スマホゲームは公式が譜面を作り、プレイヤーに提供しています。

逆に「osu!」「A Dance of Fire and Ice」といったPCゲームや「Beat Saber」というVRゲームは公式の譜面もありますが、個人が譜面を作り提供することができます1

この個人が譜面を提供する形式の理想の姿としては、著作権が切れている曲や許可されている曲を使い、個人が譜面を作り提供するというものです。

しかし、実際に譜面のダウンロードサイトに行くと著作権が守られているとは思えないのが現状です。

個人的になぜこの個人が譜面を提供するシステムが成り立っているのかが気になったので、個人的に調べてまとめてみようと思ったのかこの記事です。

この記事では、「譜面作成者」「プレイヤー」「ゲーム会社」の中から「譜面作成者」の視点のみから記しています。

注意事項


1.この記事は大学で法を専攻しているわけでもない個人がネットで調べた情報をまとめたものです。
2.できるだけ信頼できるソースを載せるように努力はしていますが、一部wikipediaなどから引用しています。
3.法は時代に沿って変わっていくので、現在正しい情報であるという保障は一切ありません。参考程度に使われてほしいです。
4.犯罪を助長する目的で作っていません。寧ろこれらの著作権に関する知識を自分が知りたくて、皆に知ってほしくて記しています。

著作権がある曲を勝手に使って譜面を作るのは犯罪?


osu!の譜面ダウンロードサイトなどを見ると、さも当然のようにアニメの曲やゲームの曲が恐らく無断で使われています。結論から申しますと、あれはほぼ全てが著作権侵害であり、犯罪です。

なので、他のみんなは著作権侵害をしているかもしれませんが、 私たちが譜面作成をする際は気を付ける必要があります。

どんな犯罪なの?


もし、著作権法で守られている曲を勝手に使用し頒布した場合は、著作権法の公衆送信権の侵害になります2

また、曲の使用方法によっては著作者人格権という権利を侵害してしまう可能性もあります3

著作者人格権 (ちょさくしゃじんかくけん、英語: Moral rights) とは著作権の一部であり、著作物の創作者である著作者が精神的に傷つけられないよう保護する権利の総称である。美術・文芸・楽曲・映像といった著作物には、著作者の思想や感情が色濃く反映されているため、第三者による著作物の利用態様によっては著作者の人格的利益を侵害する恐れがある。

wikipedia 著作者人格権 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%91%97%E4%BD%9C%E8%80%85%E4%BA%BA%E6%A0%BC%E6%A8%A9 最終閲覧日2021.8.16

著作権は親告罪だから見逃されている?


著作権侵害に対する罪は以前まで、著作者の告訴が無い限りは起訴されない犯罪でした。これを、親告罪といいます。

親告罪の場合は著作者からの告訴が無い限りは起訴されません。
その反対に非親告罪の場合は著作者からの告訴が無い場合でも検察官が起訴することができます。

以前まで著作権は親告罪であったので、いくら著作権を侵害しようと著作者の告訴が無い限りは裁判沙汰になる事は無かったということです。
そのため、著作権侵害の数が多すぎて裁ききれない場合や、侵害の悪質度が低い場合は見逃される傾向にあります。
また、個人クリエイターの場合はこのような著作権に関する法や告訴の仕方などを自ら調べたり、法の専門家に委託するなどと、時間もお金も労力も掛かる事になります。

しかし、平成30年の著作権法改正により、著作権等侵害罪の一部が非親告罪となりました4。  


非親告罪が適用される条件の中に

有償著作物等を「原作のまま」公衆譲渡若しくは公衆送信又はこれらのための複製を行うものであること

文化庁 「環太平洋パートナーシップ協定の締結及び環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律」による著作権法改正の施行について https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/bunkakai/53/pdf/r1413733_11.pdf p.3 最終閲覧日2021.08.16

という物があります。このことから譜面を作成し著作物を無許可で不特定多数にネットを介して提供する行為は、日本では完全にアウトになったと言えるでしょう。

JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)という有名な著作物を代わりに管理してくれる著作権管理団体があります。これには信託という仕組みが使われており、信託期間中はJASRACが著作権の持ち主になるためJASRACが代わりに起訴を行ってくれることになります5

このような個人クリエイターかどうかを問わず守ってくれるサービスも存在するため、著作権侵害に対する法的対処は簡単になってきていると言えると思います。


しかし、現在進行形で著作権侵害は行われ続けています。なぜまかり通っているのでしょうか。

なぜまかり通っているのか


日本では平成30年の著作権法改正により、著作者の告訴なく起訴できるようになりました。JASRACなどに委託すれば法的対処も難しくなくなりました。
しかし、実際に個人が作った譜面などによる曲の著作権侵害が減っているかと言われたら、そこまで減ってはいないと感じてしまいます。

なぜ著作権を侵害した個人製作譜面がまかり通っているのか
これにはい3つの理由があると個人的に考えます。

悪質度が他の海賊版サービスとは比較的高くない


一つ目の理由として、悪質度が比較的に高くないところにあると考えます。こう言うと語弊を生んでしまいそうですが、他の海賊版サービスと比較すると悪質度が高くないというだけであり、同じ犯罪です。
悪質度が比較的高くないと言える理由としては、譜面制作がお金稼ぎを目的としておらず、曲の頒布を目的としていないところにあります。
インターネット上で今一番問題になっている著作権侵害の問題は、海賊版にあると筆者は考えます。勿論曲を無断で頒布している譜面提供は海賊版と言えます。しかし、それ以上に金銭を目的としたような悪質的な海賊版を頒布しているサイトやサービスがあるため、現在はそちらの対処が優先されていると考えます。

違反者が多いため。また、個人を特定するのが難しいため


二つ目の理由として、違反者が多く、個人を特定するのが難しいところにあると考えます。個人を特定するのが難しいかどうかというのは、専門家でもない私には知る由もないです。しかし、基本的に匿名でやり取りしているネット上では発信者情報開示請求6という手段を踏み、プロバイダに情報開示を求めない限り個人を特定することは難しいと筆者は考えています。
この発信者情報開示請求というのは、ネット上で何か権利侵害があった場合、インターネット業者であるプロバイダに情報開示請求を行い、IPアドレスから個人を特定する方法です7

この発信者情報開示を素早く行うには、明白な権利侵害を行っている必要があります。権利侵害が明白の場合でも、プロバイダから任意に開示されなかいことも多く8、任意開示がされなかった場合は「コンテンツプロバイダへの仮処分の申立て」と「アクセスプロバイダへの訴訟提起」の計2回の裁判を行う必要があり、時間やコストが掛かるのは必然であるといえるでしょう9

また、著作権侵害者も数が多いと推測できます。というか推測なんてしなくてもどう考えても多いです。著作権を侵害している曲数を数えることはできませんが、実際に譜面配布サイトに見に行けば感じる事ができます。これらの著作権を侵害している人を一人一人発信者情報開示請求なんてしてたら埒が明かないのは明らかです。

宣伝になるから


筆者として、宣伝になるからというのは肯定します。しかし、賛成はできないという立場で書かせていただきます。

私個人が事実としてたくさんの音ゲーから色々な曲を知り、様々なCDやライブにお金を落としています。なので、宣伝になるというのは事実であり、否定はできないです。

音ゲーのような二次的利用は音楽の文化を発展させ、盛り上げる重要な役目であると思います。

しかし、犯罪は犯罪であり、何とも言えないのが事実です。

筆者の独り言として


今まで、法的観点から譜面作成がどうなのかを見てきましたが、個人的見解として少し述べたいと思います。

先ほど述べたように毎回個人を特定して法的措置に及ぶのはとてもコストがかかります。そのため、譜面作成などで著作権を侵害した場合は基本削除や警告などを行うだけになっているのが現状である、と個人的には思っています。

JASRACのHPには「違法利用が悪質な事例については法的措置を講じています10」 と実際に記述されています。


著作権が法で守られている理由として、著作者の利益を守るため目的があります。更に言えば、文化の発展に寄与するためであります11
そのため、著作者の利益を害しにくく、コンテンツ産業を盛り上げるような二次創作であれば黙認されがちなのも事実です12

譜面作成は二次創作だと私は思いますが、法的に勝手に曲を使って譜面作成というのは曲を不特定多数に提供している時点で完全アウトです。個人的にはどうにか合法的に譜面を作れるようになって欲しいです。
遊ぶ側としても、好きな曲があるととても楽しいですし。

実際に「A Dance of Fire and Ice」という音ゲーでは。許可が取れている曲のみ譜面作成が可能になっているようです。しかし曲の種類は少なくなってしまいます。

カラオケみたいに使用された分だけ徴収するような仕組みって作れないんでしょうか? おしえてえらいひと

一応私たちが譜面作成を行う上でどんな曲が使えるか調べました。

どんな音楽なら使えるの?

①許可をもらった曲


もちろん著作権者から許可をもらった曲の場合は利用できます。

著作権は譲渡することが出来るので、JASRACのような管理団体や個人に著作権を渡していることがあります。

著作権者と著作者が違う場合があるので、しっかり調べる必要があります。

②著作権が切れているもの


音楽の著作権は著作者が無くなってから70年間と定められています13

勿論この70年を超えた曲であれば利用できるのですが、例外や法律の改正が幾度とあったため、幾つか気を付ける点を載せておきます。

著作権の期間について


2018年12月29日までは著作権の保護は死後50年でした。2018年12月30日に70年に延長されたわけですが、2015年に著作権が切れた曲の場合はどうなるのでしょうか。
答えとしては、このように一回著作権が切れた場合の延長はありません14

また、著作権の保護期間の計算方法は、無くなった翌年の1月1日からです。

戦時加算という制度もあるので、戦時中や戦前に作られた著作物は気を付ける必要があります。

著作権が切れた曲も気を付ける必要がある


70年経過した曲は自由に使うことが出来ますが、それを演奏した音楽データなどは著作権が切れていない可能性があります。
例えば、J・S・バッハの「G線上のアリア」はとっくに著作権が切れていますが、それを演奏したものが最近のものだとその演奏自体に著作権があるので、無断で利用した場合は著作権侵害にあたります。

正直色々ややこしいです。

結論


曲を無断で使った個人製作譜面が問題にならないのは、ただ目を付けられていないから。
曲を無断で使った個人製作譜面は、ネットを通じて不特定多数に配布した時点で普通に著作権侵害です。最近一部非親告罪になったことによって著作者の告訴が無くても検察官側は起訴できるようになったため、悪質な場合は著作者の告訴なしに起訴は出来る状態。

しかし、文化庁のQ&Aにある通り

また,違法となる場合であっても,著作権はあくまで個人の権利であり,権利を行使するか否かは,基本的に著作権者の判断に委ねられるものですので,著作権者が権利行使を行わなければ,創作・アップロードを行った者が法的責任を問われることはありません。

文化庁 侵害コンテンツのダウンロード違法化に関するQ&A(基本的な考え方)  https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/r02_hokaisei/pdf/92080701_01.pdf
最終閲覧日2021.8.16


という見方もあるため、本当に悪質な海賊版サイトにしか著作者の告訴なしの起訴などは行われないと個人的には考えます。

だからといって曲を無断でそのまま丸々使った譜面を配布するのは今の法律やゲームシステム的にアウトなので、法やゲームシステムが変わらない限りは、著作権的に扱える曲のみ使用するしかないです。

本当にその人の曲を使って譜面制作を行いたい場合は、その曲の著作権者から許可をもらいましょう。

JASRACなどが著作権者の場合は個人が個人的利用のために許可をもらうのは厳しいらしいですが、個人が著作権者の場合であれば交渉次第で了承を得られるとは思います※16(ソースはないです)。

実際に音ゲーの個人利用を無償で許可している作曲者の方も多数いるので、そのような方々を探すのも良い方法だと思います。

個人的な譜面制作は著作権的観点から見ると厳しいものがありますが、出来ないことはないことがわかりました。

著作者の利益を守りつつ、音ゲーの譜面制作や音楽の文化を盛り上げる仕組みが出来る事を願っています。

おやすみなさい。

参考文献

※1 「A Dance of Fire and Ice」と「Beat Saber」はデフォルトでは個人譜面をプレイすることができません
※2 日本写真家協会 https://www.jps.gr.jp/post_26/ 最終閲覧日2021.08.16
※3 公益社団法人 https://www.cric.or.jp/qa/hajime/hajime2.html 最終閲覧日2021.08.16
※4 日本著作権教育研究会 https://www.jcea.info/2018houkaisei/2018index.html 最終閲覧日2021.08.16
※5 JASRAC https://www.jasrac.or.jp/contract/faq.html#anc-12 最終閲覧日2021.08.16
※6 総務省 https://www.soumu.go.jp/main_content/000724725.pdf 最終閲覧日2021.08.16
※7 NTTコミュニケーションズ https://www.ntt.com/about-us/disclosure/isplaw.html 最終閲覧日2021.08.16
※8 任意に開示しない理由として、プロバイダは個人情報を保護する義務があるから。
※9 総務省 https://www.soumu.go.jp/main_content/000724725.pdf p.4~5 最終閲覧日2021.08.16
※10 JASRAC https://www.jasrac.or.jp/contract/management.html 最終閲覧日2021.08.16
※11 日本美術著作権協会 http://jaspar.or.jp/copyright_law/20170404-2 最終閲覧日2021.08.16
※12 文化庁 https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/pdf/92735201_02.pdf p.8~9 最終閲覧日2021.08.16
※13 文化庁 https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/kantaiheiyo_chosakuken/1411890.html 最終閲覧日2021.08.16
※14 文化庁 https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/kantaiheiyo_chosakuken/1411890.html 最終閲覧日2021.08.16